箱庭の夢【黒】 (ページ9)

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𝟗 ページ9

目黒くんは毎日のように話しかけてくれる。聞き上手で話し上手だから盛り上がって楽しい。

高校生になってから初めてできた友達に浮かれていた。浮かれているから、こういうことになる。

　
「なんで目黒くんと仲良くしてんの？」

　
あの人気者の目黒くんに友達認定されていたから。すっかりすっかり忘れていたのだ。

朝登校して、寝癖が直りきらなかったから女子トイレの鏡で直していると後ろから人影。振り返ったときには、水がぶわっと顔からかかって。

「ちょっと、調子のりすぎなんじゃない？空気は空気らしく大人しく静かにしてなよ」

…そんなことを言ってくる相手の手にはバケツ。
水を思いきりかけられたみたいだった。

一丁前に身だしなみなんか気にして、浮かれてんの？という言葉にすーっとなにかが冷めていく。

そうだ。わたしは空気のように扱われてて。たまたま、たまたま目黒くんがいい人だから声をかけてもらって。話しただけで友達認定してくる目黒くんだから、友達ができただけ。本当は弱くてぐずぐずなわたしだ。こうやっていじめられてしまうのも仕方ないのだ。

目頭が熱くなってくるけど我慢する。全部我慢すれば、大丈夫だから。

「……ごめんなさい」

わたしなんかが、ごめんなさい。

「まあこれでしばらく教室来れないし、目黒くんとこいこー」

いこいこ、なんてくすくす笑う彼女達が去っていくのを見ていると、なんとか立っていた足の力が抜けた。びしょ濡れのまま座り込む。

「…どうしよう」

さすがにこのまま教室は行けないけど、ジャージを取りに行くにはロッカーまで行かないといけない。それともいっそのこと保健室で借りるか…でも、先生に深掘りされそうで面倒くさい気もする。けどまあ仕方ないよね。

はあ、とため息をつきながらとりあえず水を絞る。
ぞうきんでとりあえず床を拭くだけ拭いて、保健室までジャージを借りに行く為に廊下へ出た。