𝟏𝟗 ページ19
ない。ない、どこをさがしても、ない。
亡くなったおばあちゃんの形見とか、そういう凄い大切なものではない。ただ、自分が気に入って、ずっとずっと手入れして綺麗にしてた絵の具入れのポーチ。
自分のお気に入りの色だけいれて、なにか悲しくなったとき、辛くなったとき、その色で絵を描いて、自分のことを励ましてきた。…それなのに、ない
昼休み、向井くんとご飯を食べるのに、美術室に持っていこうか悩んだけど、この前目黒くんに描いてるの見られて恥ずかしかったな、なんて思って教室に置いていった。
昼休みが終わって帰ってきた時、机に置いてあったであろうポーチがなくなっていた。あれ、鞄にしまったんだっけ、なんて考えていると、予鈴が鳴って。急いで準備しなくちゃ、と思ってそのまま探さずに放課後。
鞄を漁っても見つからないポーチに血の気が引いたのが自分でもわかった。
ああ、とられたのか、あの子たちに。
どこを探してもないポーチ、原因はそれしか考えれなかった。
校内をぐるぐる探し回っても見つからないポーチ、ああ、せめて、せめて、汚れててもいいの、絵の具がなくなっててもいいの、あのポーチだけ、ずっとずっと愛着があって。……何分、何十分探したのだろう。
焼却炉近くに、絵の具は中身があふれてぐちゃぐちゃで色が混ざって真っ黒、ポーチははさみかなにかで切られたのか、原型などほとんど留めていない状態で見つかった。
……わたし、なにかした、？
なにか不快なことをした？ あなたたちに、なにか、迷惑、かけた？
思った以上に限界だったみたいだった。
ずっとぼろぼろだったはずなんだ、気づいてなかっただけで。
____だから、こんなときに来ないでよ、目黒くん
「…A？」
「ぁ…」
「なんで、泣いてるの」
こんなところ、あなたに見られたくなかった。
「俺じゃ頼りにならない？」
あなたは、わたしの絵を見てくれてる、ただそれだけで良かった。
「ねえ、A…っ」
あなたにそんな顔させたくないんだよ、目黒くん。
……顔をあげて、目黒くんを見てみると、わたしよりも酷い顔で、涙がこぼれ落ちそうで、感情がぐしゃぐしゃな表情をしていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 311人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もりの | 作成日時：2024年4月4日 21時
